「俺のせいで、紺野……神谷さんとも坂木とも険悪になっちゃっただろ?」
「……あー……うん。いいよ」
 私は、耳たぶに触れながら視線を落とした。江藤くんの汚れたスリッパを見つめる。
「あれだよな、俺が交換条件とか言ったから変なことになったんだよな。悪かったよ」
 なんだろう、やけに素直に謝られて妙な心地がする。それに、江藤くんらしくない。
「あのあと、坂木にいろいろ聞かれて、怒られたんだ」
「……え?」
 怒られた? 坂木くんに?
 私は、江藤くんの足もとから彼の顔へと視線を上げた。江藤くんは、渋い顔で唇をひと舐めする。
「脅しだって言われた。俺にはそのつもりがなくても、紺野にとっては絶望するくらいキツイことかもしれないだろって……説教されて」
 知らなかった。神谷さんと私が帰ったあと、坂木くんはそんなことを言ってくれていたんだ。唇に指をあてた私は、その様子を想像する。
「俺、紺野の気持ち、すげー軽く考えてたと思う。あと、すげー自己中だったと思う。……て、全部坂木からの受け売りだけど。一応、ちゃんと反省したんだ、これでも」
「……うん」