ポケットからハンカチを取り出して手渡そうとするも、神谷さんは受け取らずになにも言わない。ただ、じっと私の目を見ている。
「神谷さーん、保健室行ったほうがいいよ?」
「そうだよ、けっこう血が出てるよ?」
周りの女子たちからそんな声が聞こえたことで、神谷さんはようやく自分の手の甲を見た。血がついていることに気付き、「……あ」と小さく声を出す。口も切ったみたいで、唇からうっすらと滲んだ血が見えた。
けれど、神谷さんは私のハンカチを受け取らずに、体育館の入口へと歩きだした。私は、その後を追う。
「神谷さんて、人の善意をなんだと思ってるんだろう」
「どういうこと? あのふたり仲よしなの?」
「ていうか、相手にされてないんだけど」
「あの人、うしろ姿だけ神谷さんそっくりだよね。神谷さんに憧れて真似してるとか?」
「ちょっと痛々しくない?」
体育館を出るまでに、いくつもの声が聞こえた。それはほんの一部の人の声なのだろうけれど、まるで私たち以外全員がそう言っているように聞こえた。
保健室の前まで来ると、こちらを頑なに見なかった神谷さんが、くるりと振り返った。
「友達面しなくていいよ」
「神谷さーん、保健室行ったほうがいいよ?」
「そうだよ、けっこう血が出てるよ?」
周りの女子たちからそんな声が聞こえたことで、神谷さんはようやく自分の手の甲を見た。血がついていることに気付き、「……あ」と小さく声を出す。口も切ったみたいで、唇からうっすらと滲んだ血が見えた。
けれど、神谷さんは私のハンカチを受け取らずに、体育館の入口へと歩きだした。私は、その後を追う。
「神谷さんて、人の善意をなんだと思ってるんだろう」
「どういうこと? あのふたり仲よしなの?」
「ていうか、相手にされてないんだけど」
「あの人、うしろ姿だけ神谷さんそっくりだよね。神谷さんに憧れて真似してるとか?」
「ちょっと痛々しくない?」
体育館を出るまでに、いくつもの声が聞こえた。それはほんの一部の人の声なのだろうけれど、まるで私たち以外全員がそう言っているように聞こえた。
保健室の前まで来ると、こちらを頑なに見なかった神谷さんが、くるりと振り返った。
「友達面しなくていいよ」