ちょうどそのとき、観覧車の係員に呼ばれた。この状況じゃ断るわけにはいかず、私と神谷さんは慌てて動く観覧車に乗りこむ。気持ち的には、全然観覧車を楽しんでいる場合じゃないのに。
「いってらっしゃーい」
 日焼けしたお兄さんが、にっこりと微笑んで外から鍵をかけた。観覧車が、わずかにきしんだ音を立てながら上へと進んでいく。
 浮かぶ密室の中で、私と神谷さんの空気は、それはそれは重たくなっていた。納得のいかない顔をしている彼女は、顎に手をあてて考えこんだあと、正面の私へゆっくり視線を戻す。
「さっき江藤くんが言ってたこと、本当によくわからないんだけど、なに?」
 もともと明るい声じゃないけれど、この神谷さんの声はいっそう低く耳に響く。
「LIMEのことも意味不明だし、今日の約束についても、どういうこと? 計画的だったってこと?」
 私は目を落とし、膝の上のシャツワンピを両手で握る。観覧車が揺れているのか、それとも眩暈なのか、視界が歪んでいくようだ。
「それなら、なんで今日私を誘ったの? 私、必要ないでしょ?」