笑っていたい、君がいるこの世界で

 女の子はお金を持っていないらしく、角からお父さんがいるらしい場所を確認して肩を落とした。あの方向には休憩スペースがあったから、そこに座って電話をしているのだろう。
 私はその子の落胆を見て、自分の財布から小銭を取り出す。そして、クレーンゲームの機械に入れた。
「よし!」
 鼻息を荒くして、アラタを狙う。けれど、やはりひと筋縄ではいかない。するりと抜けて、一回目はあえなく終了。
 すると、それを見ていた女の子が、身を乗り出して応援の声を上げる。
「お姉ちゃん、頑張れ!」
 二回目、三回目、四回目……そろそろ小銭がなくなってきたときだった。
「紺野、これ、欲しいの?」
 背後から声をかけられて、私は「うわっ!」と声を上げてしまった。振り返ると、大田くんがなにかを口に含みながら立っていた。甘い匂いがする。キャラメルだろうか。
「えー……と、うん」
「取ろうか?」
「え、悪いよ。ていうか、坂木くんとゲームしてたんじゃ……」
「坂木は、知り合いがいたみたいで、向こうでしゃべってる」
 知り合い……さすが坂木くんは顔が広い。そんなことを思っていると、大田くんはポケットから小銭を出して投入した。