「……私、先に帰るね。それじゃ」
　自分が作ってしまったこの雰囲気にいたたまれなくなった私は、彼らに背を向けて歩き始めた。坂木くんの顔は、見られなかった。
　なんで、あんな言い方をしてしまったんだろう。
　早足で歩きながら、喉もとに苦くて熱いものがこみあげてくる。
　坂木くんに友達じゃないと言われるのが怖くて、自分から先に否定してしまった。それこそ、自意識過剰だ。軽く流せばいいことまで、大人げなく反応してしまう。
『それ多数決させて、どうなるの？』
『紺野の言う努力って、どんな努力？』
『目立たないこと？　波風立たせないこと？　空気を読みまくること？』
　坂木くんの言葉が何度も何度も頭のなかで繰り返される。そして、どんどん歩く速度が速くなっていく。
　今日は朝から全然いいことがない。
　ほら、外の世界に出たら、やっぱりこういうことが起こるんだ。細心の注意を払っているつもりでも、人と関われば、自分でも自分が思いどおりにいかない。傷付くことも傷付けてしまうことも避けられない。嫌なことが、次から次へと起こるんだ。