私は戸惑いながらも考えた。自分が、高校に入ってから、失敗しないように努力していることを。
「目立たないこと? 波風立たせないこと? 空気を読みまくること?」
 そして、それをそのまま坂木くんに言い当てられ、急に恥ずかしくなる。自分のなかに、長いこと生じていなかった 感情がいくつも同時にわきあがった。そのなかには、わずかに怒りも含まれている。逆ギレと言ったほうが正しいかもしれない。
「そ、そうだよ! 私はもう、はみだしたくないし、嫌われたくないの」
 こぶしに力をこめ、そう声を荒らげたときだった。
「新じゃん。なになに? 喧嘩?」
 うしろから歩いてきた男子が、坂木くんに気付いて声をかけてきた。私はひゅっと言葉をのみこんで 、あとずさる。
「どうしたの? この子、友達?」
「あぁ、紺野は――」
「違います」
 私は、坂木くんの言葉を遮って否定した。
「坂木くんは優しいから声をかけてくれてるだけで、全然友達じゃないです」
 少し語気を強めてしまった言い方に、声をかけてきた男子が頭をかく。
「あー……そう」
 そして、そのまま冷えきってしまった空気に、「えーと……」と気まずそうに笑った。