そんなの、傍目から見たら“放課後デート”イベントじゃないか。男子とふたりきりで一緒に帰るなんて、しかも人気者の坂木くんとだなんて、絶対に周りからなにか言われる。
 そう思って何度も断ろうとするも、坂木くんは譲ろうとしない。結局根負けした私は、しぶしぶ坂木くんと帰ることになった。
「あれ? 坂木っちだー。今帰り?」
 案の定、自転車を取ってきた坂木くんと校門を出ると、バス停のベンチに座っていた女子ふたりが話しかけてくる。
「そうだよ。じゃーな」
「えー、なになに? チャリ押して一緒に帰るなんて、もしかして付き合ってるの?」
「違いますー」
 坂木くんは軽く受け流しながら、座る彼女たちの前を通り過ぎていく。私は、そのうしろを歩いていきながら、彼女たちの心の声を聞いた。
“あんな根暗が、なんで坂木っちと一緒に帰ってるわけ?”
“坂木っちは誰にでも優しいのに、あの子勘違いしないか心配なんだけど”
 実際まったくそんなことは言われていないのだけれど、彼女たちの視線は台詞そのものだ。私はそれが怖くて、歩く足を速める。
「やっぱり、ひとりで帰れるよ。坂木くん、自転車に乗って帰って?」