ほんの少しピリッとした空気になって、オセロの黒を白にしようとした私は手を止めた。坂木くんらしくないような言い方に聞こえて、ゆっくりと彼の顔を見る。けれど、坂木くんは怒った顔をしているわけではなく、いつもと同じ穏やかな表情のままだった。
「否定的な意見だけ大きく受け取るのは、やめたほうがいいと思うよ。クセになってるなら、意識的に変えたほうがいい。だって、過去は変えようがないんだから」
「う……ん」
 ほんの少し生まれた緊張のなか、私は止めていた手を動かし始める。今日のオセロも坂木くんの勝ちで、三分の二は真っ黒になった。

「今日、送るよ。一緒に帰ろう」
 時間が来て図書室の鍵をかけると、伸びをした坂木くんがそんなことを口にした。私は聞き違いかと思って、首をかしげる。
「昨日はカミヤンと一緒だったけど、今日は紺野ひとりになるだろ? ほら、不審者情報があったから、今日も危ないかもしれないし」
 坂木くんは、いつもどおりアラタみたいなことを言って微笑みかけてきた。
「でも、坂木くん自転車でしょ?」
「押して歩くから大丈夫だよ」