笑っていたい、君がいるこの世界で

「たしかに、少し高校に慣れてきたからこそ、ちょっとダルくなってきたっていうのはわかる。中学以上に先生の声が子守歌だし、授業中も眠い眠い」
 欠伸をする真似をした坂木くんに、私は笑った。そして、さっき以上のコマの数をひっくり返す私に、坂木くんがうなる。
 窓から、優しい風が吹いてカーテンが揺れている。ゆっくりと流れる穏やかな時間に、今日で最後なのがもったいないような気がした。
「紺野さ、最近、授業中の姿勢いいよね」
「そ……そうかな? 筋力落ちてるから、無理して伸ばしてるのがそう見えるのかも」
「いや、先生の話をちゃんと聞いてるのがわかる。俺、うしろだから」
 そんなことを言われたら、これから緊張してしまうじゃないか。……でも、引きこもり中の独学での勉強が大変だったからこそ、高校での授業を大事にしたいと思っているのはたしかだ。
「教えてもらえるっていうのが、とても貴重なことなんだって気付いたからかな」
「あー……そっか。そういうことか」
 坂木くんはピンときたようで、腕組みをして大きくうなずいた。