笑っていたい、君がいるこの世界で

 ちょっと悪い顔で笑った坂木くんが、ボードの真ん中にオセロのコマを並べる。そういえば今日は金曜日で、図書当番最終日だ。こうやって坂木くんとオセロをするのも、最後だろう。
「なんか元気ない?」
 オセロを始めると、坂木くんがボードへ視線を落としたままで聞いてきた。
「うん……ちょっと」
 私は、神谷さんを映画に誘ったときのことを思い返す。嬉しそうな顔で快諾してくれたけれど、自分のために彼女を利用している感じがして自己嫌悪になっていた。
 それに、私は坂木くんの前の席だから、嫌でも耳に入ってしまったんだ。江藤くんが、明日一緒に遊ぼうと坂木くんを誘っていた会話を。
「体調悪いとか? 帰る?」
「ううん、体は元気だから大丈夫」
「“体は”……」
 じゃあ、心は大丈夫じゃないのか、と言わんばかりの怪訝そうな顔になった坂木くん。
「やる気が出ないだけだよ。四月半ばにして、もう五月病かもしれない」
 慌てて撤回した私を見たあと、坂木くんはいくつかコマをひっくり返した。