笑っていたい、君がいるこの世界で

 江藤くんは、二枚のチケットをバッグの横ポケットから取り出した。そして、私に押しつけるように渡してくる。少しよれているそれを手に握らされ、私は瞬きをしながら頭をうしろへそらせた。
 どういうことなのかわからない。私と神谷さんふたりで映画鑑賞しておいで、と言っているのだろうか? なんでそれが交換条件になるの?
「〇〇パークの横に併設してある映画館でいいっしょ? 時間は、午後一番な。あそこだったら、ゲーセンとか観覧車もあるしさ、映画のあと、偶然装って合流してダブルデートしようぜ。俺は坂木を連れ出すから」
「ダ、ダブルデート? 坂木くん? な、なん……なんで?」
 話についていけない上に、坂木くんの名前まで出てきていっそう混乱する。
「俺さ、昨日紺野のLIME画面見ちゃったじゃん? あとで気付いたんだけど、あのアイコン、坂木だったよなって思って」
 一気に汗が噴き出る。あんな小さなアイコンが見えていたなんて思わなかった。
「あ……あれは違って……」