笑っていたい、君がいるこの世界で

 私は瞬きをして神谷さんを見た。彼女も、こちらを見ていた。なんだか照れくさくなって、違う話題を振ってみる。
「か、加賀見先輩は、もう大丈夫?」
「あー……うん」
 思い出したくなかったのだろうか、神谷さんは眉を寄せた。
「本当に嫌だ、ああいう人。坂木くんのおかげであの先輩にはもう声はかけられてないけど、他にも似たような人がいて」
「そうなんだ……大変だね」
「中学のときも、帰り道に声をかけられることが多くて、一番上のお兄ちゃんに迎えにきてもらったりしてた」
 私は、それを聞いて眉を上げた。もしかして、体育のときに女子たちが噂していたのって、これのことだったんじゃ……。
「彼氏が送ってくれたりとか、追い払ってくれたりしなかったの?」
「彼氏なんていたことないわ。いいって思える男の人なんて全然いなかったから」
 神谷さんは、ふん、と鼻で息をつく。私は、こんなに美人なのに意外だ、という気持ちと、やっぱり根拠のない噂は信じられない、という気持ちが同時に生じた。
 それなのにあることないこと言われ続けてきて、人間不信気味になっている神谷さんの気持ちもわかる。