笑っていたい、君がいるこの世界で

 果たして、私は高校に入って初めて、他の人と一緒に下校することになった。

 帰り道、隣同士で歩く私と神谷さんは、それはそれは静かだった。お互い社交的ではないから、靴の音だけが響いている。
 途中、横断歩道の信号が赤になったことをきっかけに、ようやく神谷さんのほうから口を開いた。
「紺野さんて、坂木くんとしかしゃべってないよね」
「……あ、あぁ、うん」
「もしかして、付き合ってるの?」
「ええっ!」
 驚きすぎて大きな声が出たから、近くで信号待ちしていたおばさんが、ちらりとこちらを見た。私は口を押さえて、思いきり首を横に振る。
「ち、違うよ。席が前うしろなのと、委員会が同じだっただけで」
「そう? たくさん話をしてたり、オセロしたりして仲よさそうだったから」
 神谷さんは赤信号を見つめながら話す。私は首のうしろを押さえながら、また小さく頭を振った。
「たぶん、誰が相手 でもそうすると思う、坂木くんは」
「たしかに」
 信号が青になって、私たちは歩きだす。