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夕陽が差し込む教室だった。窓枠に切り取られたこがねが教室の床に落ち、陰になった壁の部分に夜の闇が忍び込んでいた。理沙は先日佳乃と街へ出かけた時に、ファッションモデルを探しているというスカウトマンにモデルにスカウトされていた。
「……正直どうしたら良いのか分かんない……。普通に佳乃と一緒に大学に行った方が楽しいんじゃないかと思うし……」
理沙がそう言って佳乃を見ると、佳乃は顔を半分陰にして、口元に笑みを浮かべた。
「無理よ、それは。……だって私、将来医者になるって決めたから」
それは理沙が初めて聞く佳乃の進路の話だった。この前まで大学に行くとしか聞いてなかったのに、まさか医大に行くつもりだったなんて……。
医大になんて、理沙の成績では進めない。佳乃は学年一・二の成績だから、このまま順当に受験勉強をして、将来きっと医者になるんだろう。いきなり分かたれてしまった理沙と佳乃の道。そのことを受け入れられなくて、理沙は呆然と佳乃を見た。どうして? 私と一緒に居てくれないの? そんな思いが込み上げる。……佳乃の、口許が、歪んだ。
「……駄目だよ、理沙。……モラトリアムの時間はもうすぐ終わりよ……。理沙だって、ずっと私と一緒には居られるなんて、思ってないでしょう?」
それは酷い最後通告のように聞こえた。佳乃は理沙が居なくても良いのだ。だったら今、理沙が佳乃に言えることは……?
「そう……だね……。……じゃあ、私……は……」
言い淀む。佳乃と一緒じゃない未来なんて、見てこなかった。佳乃が楽しそうに口を開いた。
「受ければいいじゃない、モデルの話。理沙は美人だからきっとモデルの世界でも成功するわ。私の自慢の親友だもの。理沙が華々しい場所で活躍するのを、私、楽しみに待ってるわ」
微笑んで言う佳乃の顔が痛々しい。どうしてそんな顔するの。それでも頭のいい佳乃がそう言うんだから、そうした方がいいんだと、その時理沙は思い込んだ。
「そ……っか……。佳乃がそう言うなら、……私に向いてるのかもしれないわね……。顔しか取り柄がないんだもの、……それが良いんだわ……」
「何言うの、理沙」
震えた声を、佳乃が遮った。あんなに辛そうだった佳乃が、真っすぐに理沙を捉える。
「理沙の良い所は外見だけじゃないよ。そんなこと千里も渚も、今までのクラスメイトだって学校のみんなだって知ってるよ。私だって、理沙のやさしい所にいつも励まされてた。何にも取り柄のない私といつも一緒に居てくれた理沙のこと、私、凄く大事だわ。大事な理沙だから、誰よりも幸せになって欲しいの」
黒く揺らがない瞳が理沙を見つめる。ああ、この人は本当に心底理沙のことをそう思っているのだと、理沙には分かった。
「幸せ……?」
「そう。理沙に幸せになって欲しい。輝いて、成功して、そして結婚するの。理沙だから出来ることだよ、きっと」
佳乃の言うその道が幸せへの道なら、理沙はそれに沿って歩いていこう。それが理沙に出来る佳乃への……、……愛情の形だった……。