『吉岡先生。体調は大丈夫? 無理せず温かいご飯を食べて早く元気になってね』
『紬ちゃん、身体の調子はどうですか。先生たちはみんな心配しています。でも紬ちゃんのことだから、頑張りすぎるのも禁物。幸い、今週はテスト期間でこちらは大丈夫なので、安心してゆっくり休んでください』
家で寝込んでいる間、井上先輩や瑠璃子先生が何度もメッセージをくれた。本当は、体調は二日ほどで治っていた。しかし、思いの外心がへばっていて、このまま生徒たちに先生として会える気がしないのだ。
二人のメッセージを見ると、申し訳なさと情けなさで胸がぎゅっと掴まれたように苦しくなる。でもそれ以上に、温かな気持ちが伝わってきて涙が止まらなかった。

あの日、長谷君と話した日。彼と婚約者だった唯人が兄弟だと知って、吐き気が止まらなかった。本当はずっと前から予感してはいた。同じ「長谷」という苗字。そもそも、唯人と同じ苗字だったからこそ、長谷君のことが気になっていたのだ。
しかし年齢もかなり離れているし、兄弟でなくとも偶然同じ苗字だということはありえる。「まさか違うよね」と自分の中で勝手に結論づけていた。
唯人と付き合っている間、彼の家族と会ったことはない。いや、実際はこれからお互いの家族に挨拶に行こうとしているところだった。彼はあまり家族の話をしない人で、弟がいる、と聞いたもの婚約する少し前のことだ。それを聞いた時も、「そうなんだ」というくらいで、長谷君についてほとんど何も情報がなかったのだ。
ベッドからむくっと起き上がり、私は時計を見た。午前11時。今日は中間テスト3日目。テストは12時までだ。
固まったままの心と身体を無理やり動かして着替える。いい加減、出勤しなければ。他の先生たちに多大な迷惑と心配をかけているのだから。

「おはようございます」
そっと、職員室の扉を開けた。ちょうどテストが終わる頃だった。試験監督をするのは若手の先生がほとんどで、瑠璃子先生が「あ!」と私を出迎えてくれた。
「おはよう。良かった、紬ちゃん。出てこられて」
「ご迷惑おかけしてすみませんでした。もう大丈夫です」
「本当に? また何かあったらすぐに言うのよ」
「ありがとうございます……」
あんなに迷惑をかけたのに。先生はどうしていつも、優しく許してくれるんだろう。唯人が亡くなった時も、たくさん迷惑をかけた。あれから少しずつ立ち直ってきたと思ったらまた、このザマだ。いい加減私も、強くならなくちゃいけない。
「テスト、終わる頃よね。HRだけでも出ましょう」
「はい」