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 島通学の弱点は連絡船の欠航だ。

 台風はもちろん、前線の通過で急に天候が変わることもある。

 冬は晴れているわりに波が高い日も意外と多い。

 朝から欠航だと船通学者は公欠扱いになる。

 問題は昼ぐらいから荒れ模様になったときだ。

 目と鼻の先とはいえ、家に帰れなくなってしまう。

 欠航になりそうなときは港から学校に連絡が来て、連絡船通学者だけ早退する決まりになっていた。

 滅多にないことだけど、予想外の天候の急変で早退が間に合わないこともある。

 そんなときは先生と一緒に学校に泊まることになっていた。

 島に勤務している先生方は独身者向けの古い教員住宅だったり、家族がいる場合は学校近くに家を借りたりして、ほぼ全員が島に住んでいた。

 主に若い先生が僕らの世話をしてくれて、近所の生徒の親がお手伝いに来ることもあった。

 小三で僕が足止めされたときは、美緒のお母さんが手伝いに来てくれて、ついでに美緒も一緒に学校に泊まっていったことがあった。

 暗い窓には激しく雨が打ちつけていたけど、災害避難所として備蓄されていたレトルトカレーを食べて、空き教室に布団を敷いて枕投げをやったり、けっこう楽しかった。

「キャンプみたい!」と美緒もはしゃいでいた。

 寝る場所は男女別の教室で男の先生も一緒だったから消灯後はおとなしく布団に入るしかなかったけど、少しの間だけは暗い中で怪談話をするくらいは許してくれて、高学年のお兄さんたちは声を抑えながら盛り上がっていた。

 僕はそういう話は苦手だったので頭まで布団をかぶって丸まっていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。

 あとで聞いた美緒の話によれば、女子の部屋ではコイバナをしていたらしい。

「爽太のことが好きって言ったの私だけってひどくない?」

 まあ、僕なんかさえない男の子だからと納得してしまったのだけど、あれは彼女なりの『告白』というものだったのではないかと気づいたのは中学に入ってからのことだった。

 僕は信じられないくらい鈍感な少年だったのだ。

 あくる朝はすっかり晴れていて、家庭科室で美緒のお母さんが作ってくれた豚汁とおにぎりをみんなで食べた。

 島育ちの同級生にはうらやましがられたけど、小中学校ではその一回だけの経験だった。