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僕と美緒は小学校の同級生で、入学してすぐに仲良くなった。
といっても、十人ほどのクラスだし、そのまま中学まで持ち上がりだから、男女分け隔てなくみんな仲が良くて、僕らだけが特別な関係というわけではなかった。
放課後、帰りの連絡船に乗るのは僕の方だったけど、毎日暗くなる少し前まで島で遊んでいくことにしていた。
本土側に帰っても友達はいなかったし、父親は単身赴任で母親も日勤の看護師だったから早く帰っても家には誰もいなかった。
むしろ島に残っていた方がまわりの大人の目もあって安心だと思われていた。
僕は小学生の頃までは背も小さくて、美緒の方が電柱みたいにひょろりと背が高かった。
だから彼女と一緒にいると姉弟に見られることも多かった。
美緒にしてみればその頃から僕は連れ回すのにちょうどいい子分みたいなものだったのかもしれない。
学校裏の原っぱでシロツメクサの冠を作るのにつきあわされたり、探検と称して集落の反対側にある廃校にしのびこんだり、遊びを思いつくのはいつも美緒だった。
一方で、花冠は途中で飽きて完成したことがなかったし、廃校の怪しさに我慢できずに逃げ出して、置いてきぼりにされるのはいつも僕の方だった。
そんな僕らにとってちょっとした事件が起きたのは小学五年生の秋だった。
いつものように学校を出て浜辺で貝殻を拾いながら歩いていると、美緒が小富士山を見上げて指さした。
「ねえ、あの山に登ったことある?」
「ないよ」
船からいつも眺めていたけど、登ったことはない。
標高は百メートルちょっとで、途中の老松神社までは石段を上がり、そこからは森の小道に分け入って登るという話は聞いていた。
「登ってみようよ」と、美緒がなんでもないことのように言い出した。
「今から?」
「大丈夫だよ。てっぺんからちょうど夕焼けが見えてきれいなんじゃないかな」
老松神社は島の東側にある。
僕らは小富士山に隠れた半分の夕暮れ空しか見たことがなかった。
「ほら、行くよ」
僕の返事を聞く前に美緒は神社に向かって歩き始めていた。
石段の下で彼女に追いついたとき、僕は思わずため息をついた。
小富士山の中腹にある老松神社の階段は絶壁といっていいくらいの急勾配で、しかも石段が子どもの靴ですら踵がはみ出るくらいの奥行きしかなく、おまけに表面がすり減って斜めになっているのだ。
足を横に向けながら踏ん張りをきかせて登らないと滑り落ちてしまうのに手すりもない。
それが遙か見上げる先まで続いている。
老松神社のお祭りでは、島の若い衆が手をつかないように大杯を持ったままこの急階段を駆け上がるという伝統行事がある。
階段を上りきった者には大杯に酒が振る舞われて、一人前の男と認められるのだ。
ちょうどその前の週におこなわれたお祭りでその様子を見ていたから美緒も山登りを思いついたのだろう。