「いや、鈴音。もうこの際だ、ハッキリさせよう!」


けれど愛する鈴音に宥められても蛭沼は腹の虫が収まらないようで、再び居丈高に声を荒らげた。


「咲耶殿をここに連れてこい! 咲耶殿よりも俺の方が立場は上であることを、お前にわからせてやる!」


そうすることで、咲耶よりも自分の花嫁になる方が賢明な選択であることを、蛭沼は鈴音に思い知らせようと考えたのだ。


「さぁ、早く! 咲耶殿をここに呼べ!」


こうなるともう、蛭沼は引き下がらない。鈴音はやむなしといった様子で目を閉じると、吉乃に楼主の琥珀を呼ぶように言いつけた。


「吉乃。琥珀さんに、蛭沼様が外にいる咲耶様を座敷に呼ぶように言っていることを伝えてきて」


お前にもそれくらいはできるだろう、という圧を、鈴音からは感じる。

(私のせいで、皆さんにご迷惑を……)

顔色を青くした吉乃は鈴音の言いつけ通りすぐに座敷を出ると、琥珀の元へと行き、一通りの事情を説明した。


「本当に、すみません。私が未熟なせいで、こんなことになってしまって」

「大丈夫ですよ。初めてのことですし、失敗があっても仕方ありません。それに――これもある意味、こちらとしては好都合ですから」

「え?」


そっと呟かれた言葉に吉乃は首を捻ったが、琥珀はにこりと笑って言葉を続けた。


「とりあえず、あとのことは僕らに任せて、吉乃さんは不自然にならぬよう、このまま座敷に戻ってください」


つまり、失敗したからといって逃げ出すことは許されないというわけだろうか。

吉乃は「はい……」と肩を落として頷くと、今度は琥珀の言いつけを守って鈴音が仕切る座敷に戻った。