「でもさ、正直なところ蛭沼様より、咲耶殿の方が鈴音花魁には釣り合っているよなぁ」


忽那は酒に弱いのか、既に大分酔っているようだった。

こういうときは一度、酒の手を止めさせて水を飲むように勧めるべきと教えられていたのだが、吉乃は咲耶の話に気を取られて注意を怠った。


「俺がもし鈴音花魁だったら、蛭沼様ではなく咲耶殿の花嫁になることを選ぶね! なぁ、きみもそう思うだろう?」


(鈴音さんは、咲耶さんの花嫁の座を狙っている。そしてふたりはとても釣り合いの取れた相手……)

確かに、忽那の言う通りだ。

だが、鈴音が咲耶の花嫁の座を狙っているという話は初耳だった。

(でも言われてみれば、鈴音さんは以前、咲耶さんを狙っていると言っていた……)

『咲耶様はね、この私、帝都吉原一の花魁・鈴音が今一番狙っているお方なの』

それはあくまで蛭沼や他の客と同じように、咲耶を客として自分の元へ通わせたいという意味なのだと思っていたが、本当は、〝咲耶の花嫁の座を狙っている〟ということだったのだろうか。