「あ、あの、私は──」

「わぁ、やっぱり未来の官僚様ともなるお方ですと、色々なことに精通していらっしゃるのですね! そうです、この子が噂の遊女です」


と、すかさず助けに入ったのは白雪だ。

白雪は返事の中で忽那をさり気なく持ち上げると、コテンと首を傾げて可愛らしい笑みを浮かべた。


「やっぱりそうか。じゃあ、神威の将官殿との噂も本当なのかい?」


神威の将官とは当然、咲耶のことだ。

咲耶の話を振られた吉乃は、初座敷の緊張とも相まって、また口ごもってしまった。


「も、申し訳ありません。私……緊張していて」

「いやいや、初々しくていい。実はね。今日はその、将官殿もいらしてるんだよ」

「え……咲耶さんがいらしているんですか?」


けれど、続けられた忽那の言葉を聞いた吉乃と白雪は、今度こそ驚いて目を見張る。


「ああ、咲耶殿は蛭沼様に命じられて、今は見世の外で見張りをしているはずさ。……蛭沼様は普段から、強引すぎるところがあるから咲耶殿は気の毒だよ」


そこまで言うと忽那は、ヤレヤレといった様子でため息をついた。

かくいう吉乃は、見世の外に立っているという咲耶のことを思い浮かべて目を伏せる。

(咲耶さんが、見世の外で見張りを……)

昼間会ったときは、そんなことは一言も言っていなかったのに。

どうして、夜も見世に来ることを教えてくれなかったのだろう。


「それに、これも噂に過ぎないんだけど……」


だが、続けて声を潜めた忽那の言葉に、吉乃は思わぬ衝撃を受けることとなる。