「ああ、鈴音はいつになったら俺の花嫁になってくれるのかなぁ」
「ごめんなさい。蛭沼様の花嫁は身に余るお役で、私では力不足だと思いますの……」
あくまで、今の自分では蛭沼に釣り合わないから花嫁にはなれない、という体で求婚を突っぱねる。
たおやかな仕草は、〝守ってやりたい〟という男心をくすぐって、蛭沼の熱情を余計に煽った。
(こうなると蛭沼様は、なにがなんでも鈴音さんを身請けしたいと思って、これからも紅天楼に通い詰める……ということだよね)
「本当に鈴音は可愛いなぁ、愛しいなぁ、今すぐ食べてしまいたいなぁ」
「ふふっ、そんなに褒められると照れてしまいます。でも、蛭沼様にそう言ってもらえるのは、他の誰に言われるよりも嬉しいですわ」
もう、蛭沼の目には鈴音しか映っていない。
鈴音の見事な仕事ぶりに、吉乃はひたすら感心するばかりだった。
「なぁ、もしかして、きみが噂の〝異能持ちの遊女〟かい?」
と、そのとき。不意に吉乃の隣に座っていた蛭沼の部下・忽那が、吉乃の顔を覗き込んだ。
突然異能の話を振られた吉乃は、目を丸くして口ごもってしまう。
「人にしては珍しい瞳の色をしているから、もしかしたらそうなんじゃないかと思ったんだけど」
まさか、蛭沼の部下が吉乃の噂を知っているとは思わなかった。
吉乃はなんと返事をすればいいのか迷って、つい言葉を詰まらせた。