『こちらは命がけで遊女をやっているのよ。でも、相手はお金さえ払えば甘い蜜が吸える。せいぜい、私を花嫁に迎えるために競い合ってもらうの。それもひとつの駆け引きの方法よ』
清々しいまでに言い切る鈴音は、いつも自信に満ち溢れていた。
『本日も特別な席をご用意するということで、蛭沼様からは前払いでいつもの倍の金額をいただきました』
陰で楼主の琥珀が銭勘定をしていることも知らず、蛭沼は今日も鈴音を落とすことに必死になるのだろう。
だが、吉乃にとって、今回の席はある意味貴重な経験の場。
だから今日は白雪と共に、鈴音の補佐をするべく、おもてなしに徹底することを心に誓っていた。
「花魁の鈴音が、見世の座敷でこんなふうに複数人の相手をしてくれるなんて、異例中の異例じゃないかい?」
「そうですね。でも、他でもない蛭沼様の頼みですもの。蛭沼様にはいつも本当に、良くしていただいていますから」
たっぷりの色気をまとわせた鈴音は、誘惑するように口角を上げた。
妖艶な仕草と美貌に、女の吉乃ですら釘付けになってしまう。
(鈴音さんの仕事ぶりをこんなに近くで見させてもらうのは初めてだけど、本当にすごい)
艶やかな着物に身を包んだ鈴音に熱のこもった目で見つめられたら、どんな男も虜になるのは必然だ。
言い方は悪いが、普段の高飛車な振る舞いは微塵も感じさせない。
そこにいるのは帝都吉原一の大見世で頂点に君臨している、花魁・鈴音に違いなかった。