「で、でも、琥珀さん。鈴音姉さんは花魁ですし、見世の座敷で複数のお客様のお相手をするというのは異例では……」
「それについては、私が良しとしたのよ、白雪」
「鈴音姉さん!」
「今、琥珀さんが話した通り、今回の主催はあの蛭沼様よ。白雪も知っての通り、蛭沼様は私の上客。ここで恩を売っておいて、損はない相手よ」
ふらりと現れた鈴音は今日も、天女のように見目麗しい容姿をしていた。
だが、相変わらず吉乃を見る目だけは厳しい。
思わず吉乃が背筋を伸ばすと、鈴音は「ふん」と小さく鼻を鳴らした。
「そういうわけなのです。大変急なことで申し訳ないのですが、今日は鈴音さんの特別な座敷に上がっていただき、吉乃さんと白雪さんのおふたりにも蛭沼様ご一行のおもてなしをお願いします」
そう言うと琥珀は、絹と木綿の首根っこをヒョイと掴んで捕まえた。
「ふたりはこれから説教です」
「ひ、ひやぁ~!」
そして、そのままふたりを連れて去っていく。
小さくなる背中を吉乃が見送っていると、そばに鈴音がやってきた。
「しっかりやりなさいね」
鈴音の言葉にまた吉乃の背筋が伸びる。
初めての接客、お酒の席でのおもてなし。
思わぬ形で実践経験を積むことになった吉乃は、緊張でゴクリと喉を鳴らした。