「遊女になったが最後。一度、帝都吉原の大門をくぐった女は年季(ねんき)が明けるか、花嫁に選ばれて身請けされなきゃ、外には出られねぇからなぁ」

実際、悲惨な現実に耐え兼ね、逃げ出そうとする遊女は後を絶たないという。

しかし仮に逃亡を図ったとしてもすぐに捕まるか、運良く大門の外に出られた場合も神威(かむい)と呼ばれる帝都政府お墨付きの精鋭軍に、捕縛されて終わりだ。


「俺ら、人ならざる者を恐れる女たちにとっちゃあ、ここは地獄──苦界で間違いねぇだろう」

「でも、中には率先して帝都吉原に来る物好きもいると聞いたぜ?」

「そういう女たちは、帝都の高貴なお方に見初められるために、あの手この手を使って成り上がろうとするんだから恐ろしいもんだ。ほら、例の──〝鈴音花魁(すずねおいらん)〟あたりは、良い例じゃないか?」


見張り役たちの会話を聞きながら、吉乃はそっとまつ毛を伏せた。

(花嫁とか身請けとか、成り上がりとか……私にはまるで関係のない話だなぁ)

自身の足元を見つめる吉乃の目に、光はない。

思い出されるのは現世での不遇な日々だ。