「咲耶さん、すみません。ふたりに悪気はないんです。涙についても、私自身が自分に本当に異能があるのか知りたくて、試すことに同意したからで――」
「つまり吉乃は、俺以外の前で涙を流したということか?」
「え?」
「吉乃の惚れ涙をこの童たちが飲んだということは、吉乃が俺のいないところで泣いたということだろう?」
思いもよらない問いかけに言葉を切られた吉乃は、キョトンとして固まった。
しかし、吉乃を見る咲耶の顔は真剣そのものだ。
(真剣と言うか、なんだか悔しそうにも見えるような……)
「吉乃、どうなんだ」
「あ……は、はい。確かに泣きましたが、それは目の前で大量の玉ねぎを切られたからで」
「玉ねぎ、だと?」
「はい。ザクザクと、大量の玉ねぎを切っていただきました」
ちなみにあのときの玉ねぎは、紅天楼の従業員が美味しくいただきました。
そうして一通りの事情を吉乃が説明すると、咲耶はまた信じられないといった顔をした。
「まさか、そのような方法で吉乃に涙を流させるとは――。琥珀。今度ふざけた真似をすれば神威の将官として粛清する。肝に銘じておけ」
咲耶の言葉を聞いた絹と木綿が「職権乱用です!」と、また頬を膨らませて怒る。
結局、一番とばっちりを受けたのは琥珀だった。
咲耶がなぜここまで悔しがるのか吉乃にはさっぱり理由がわからなかったが、これ以上掘り下げると琥珀の身に危険が及びそうなので口を挟むのは止めておいた。