「なぜ、赤くなる?」

「さ、咲耶しゃまっ! 吉乃しゃまから、今すぐその手をお離しくださいっ!」

「うん?」

「吉乃しゃまを困らせる者は、たとえ咲耶しゃまであろうと許しませぬ!」


そのとき、思わぬ助け船が入った。

絹と木綿だ。ふたりは咲耶に顎を掴まれたまま固まる吉乃の足元でピョンピョン跳ねると、頬を風船のように膨らませた。


「吉乃しゃまは、我らの大切なお方なのです!」

「なぜ、この童たちがこんなに吉乃に懐いているんだ」

「す、すみません、咲耶様。それはこのふたりが吉乃さんの惚れ涙を飲んだからでして……」

「吉乃の惚れ涙を飲んだだと?」


琥珀の補足を聞いた咲耶が信じられないといった顔をする。

対する琥珀はシュンと耳を垂れると、申し開きのしようがないと頭を下げた。


「これには色々と事情はあるのですが、妖特有の好奇心を抑えられず、つい僕も同意をしてしまって」

「琥珀しゃま、我らの邪魔をしないでくださいませ!」

「これは吉乃しゃまを愛する者同士の、絶対に負けられない戦いなのです!」

「き、絹ちゃん、木綿くん。もうそれくらいで止めておこう……?」


さすがに見ていられなくなった吉乃も止めに入った。

ふたりの気持ちは有り難いが、これ以上は、いたたまれない。