「吉乃、久方ぶりだな」

「咲耶さん、なんで……?」


咲耶に会うのは、吉乃が紅天楼に連れてこられて以来なので半月ぶりだ。

久々に会う咲耶は相も変わらず眉目秀麗で、うっかりすると見惚れてしまいそうになる。


「今日は軍事で来たのだが、用も済んだのでこれから帰るところだ」

「仕事の用、ですか?」

「ああ、吉乃は稽古で忙しいと聞いていたが、見世を出る前に顔が見られてよかった」


そう言うと咲耶は吉乃を見て笑みを溢す。

ついドキリと胸の鼓動が跳ねたのは、桜吹雪の中で笑ったあの日の咲耶と、今の咲耶が重なって見えたからだ。


「ここでの生活にはもう慣れたか? 困っていることなどはないか?」


穏やかな声で尋ねられ、吉乃はドギマギしてしまった。

(深く考えてはダメ。咲耶さんが私を気にかけてくれるのは、私が異能持ちの遊女で厳重な管理が必要だからというだけで――)

以前会ったときとは違って、今はもう、きちんと理解している。

それなのに心臓は勝手に早鐘を打つように鳴りはじめ、吉乃は咄嗟に咲耶から目を逸らしてしまった。


「吉乃? どうした、なにか悩みでもあるのか」

「い、いえ、そういうわけでは……」

「ではなぜ、俺から目を逸らすんだ。こっちを見ろ」


と、咲耶が堪りかねたように吉乃の顎に指を添えて持ち上げた。

予想外に至近距離で目と目が合い、吉乃は今度こそ赤面して押し黙った。