「昔、現世にあった吉原の遊女が使っていた廓詞(くるわことば)は、帝都吉原では使われていないって聞いて、それだけは良かったかなと思ったけど」

「廓詞って、ありんす〜ってやつね。確か、そんなのもう死語だって、前に他の見世の子たちが話してたなぁ」

「死語……」

「うん。でも、廓詞はともかくとして、三カ月で習ったことの全部を完璧に身につけるなんて無理だよ。だから今はとにかく、なにかひとつでも課題が達成できたらいいんじゃないかな?」


そうしていくうちに、これなら!という武器が見つかれば、遊女としての吉乃にも箔がつくと白雪は話を続けた。


「吉乃ちゃんなら大丈夫。吉乃ちゃんがいつも夜遅くまで稽古の復習をしてるの、私は毎日見てるもの!」

「そうです! 吉乃しゃまなら、絶対に素敵な遊女になられます!」

「絹と木綿が保証します!」


同じ鈴音の妹分である白雪は、自分も稽古や鈴音の手伝いで忙しいにもかかわらず、いつもこうして吉乃を気遣い、優しく声をかけてくれた。

絹と木綿は惚れ涙の効果もあって吉乃がどれだけ失敗しても責めないので、正直に言うと評価はあまり参考にならない。


「三人とも、どうもありがとう。私、精いっぱい頑張ってみるね」


と、吉乃が改めてお礼を言うと、


「白雪さん、吉乃さん、お疲れ様です」


背後から不意に、琥珀に声をかけられた。

(え――?)

しかし、反射的に振り向いた吉乃は驚いて目を見張る。

そこには琥珀だけでなく、なぜか神威の将官を務める咲耶も立っていた。