「最初は覚えることが色々あって、本当に大変だよね」


白雪のその言葉の通り、吉乃はここに来るまで遊女の仕事がこんなにも多岐にわたるとは知らなかった。

帝都吉原に来る人ならざる者たちは、自分の花嫁を探すべく、遊女の魂を味見する。

『だからって、客には魂を喰わせておけばいいなんて思っている遊女は三流よ』

『一流は魂を喰わせずとも、客の心を掌握(しょうあく)できるの。そしてそれができた遊女は、〝選ばれる立場〟から〝選ぶ立場〟になれるのよ』

鈴音はそう言うと形の良い目をそっと細めた。

実際、花魁ともなれば、一度や二度の登楼では客に魂を食べさせるどころか、会話すらしないらしい。

馴染み客になるために大金を積み続けた者だけが、花魁を射止める権利を得られるのだ。

『喰われるのではなく、こちらが客を喰いものにするの。でも、そのためには自分にそれだけの付加価値をつけなければならないわ』

つまり、花嫁探しの要でもある、魂の味見をさせなくとも、客に〝この遊女の元へと通いたい〟と思わせることが重要なのだ。

そのためには教養を身につけるだけでなく、たくみな話術を始め、将棋や囲碁、琴や三味線に舞踊といった、客を楽しませるための武器がなくてはならないと吉乃は半月のうちに教えられた。

(だから誕生日までの三カ月間で、必要なことはみっちりと仕込まれることになったのだけど……)

吉乃は現世にいるときは学問の成績こそ優秀ではあったものの、将棋や囲碁、ましてや琴や三味線、加えて和歌などといったあれこれのほとんどが未経験だった。