「あ、あの……」
「え……あっ。ボーッとしちゃって、ごめんね。改めて、私は鈴音花魁つきの振袖新造、白雪です。半年後に十八になる予定の遊女見習いだよ」
「あ……じゃあ、私と同い年です。私は、三カ月後に十八になる予定で」
「そうなんだ! 見世に同い年の子がいなかったから嬉しいなぁ。私のことは、気軽に雪って呼んでね! 同じ鈴音花魁の妹分同士、敬語もなくていいからね」
屈託のない笑顔を見せる白雪はとても可愛らしく、眩しかった。
「雪、ちゃん?」
「うん! ふふっ。吉乃ちゃん、これからよろしくね。着物、新しいものを出してくるね。それで着替え終わったら、廓でのことを色々と説明させてね」
そうして吉乃は白雪に連れられ、部屋の中に足を踏み入れた。
けれど、敷居をまたいですぐに立ち止まると、ずっと握りしめたままだった手をこっそりと開く。
『これを肌身離さず持っておけ。もしものときに、きっと役に立つだろう』
脳裏を過るのは咲耶の言葉だ。
これからのことを考えると不安に駆られたが、薄紅色に光り輝くとんぼ玉を見れば不思議と心が凪いでいき、自然と足が前に出た。