「私はあんたに遊女としてのあれこれを、懇切丁寧に手取り足取り教えるつもりはないわ。だからあんたはこれから私を見て、勝手に学んで、考えなさい。ここではね、悲劇の主人公なんて肩書きは、なんの意味もなさないのよ」


――悲劇の主人公なんて肩書きは、なんの意味もなさない。

辛いことがあるとすぐに養父母のことを思い浮かべてしまう吉乃は、頬を強く叩かれた気分になった。


「自分の足でしっかりと歩いていくの。それが、遊女でいるための必要最低限の条件よ」


そこまで言うと鈴音は、吉乃の背後についていた手を離した。

そしてまた吉乃に背を向け歩き出す。そのまましばらく行くと、ある部屋の前で足を止めた。

(ここは……?)


「──白雪(しらゆき)、あんたと同室になる子を連れてきたわよ」

「鈴音姉さん!?」


と、勢い良く襖が開いたと思ったら、中から吉乃と同じ年くらいの可愛らしい女の子が顔を出した。


「呼んでくだされば、私の方から鈴音姉さんの部屋に伺いましたのに!」


鈴を転がすような声だ。

白磁の肌に色素の薄い髪が印象的なその子は、『美少女』という言葉のお手本のような見た目をしていた。