「さて、そういうわけだから、鈴音。あんたは約束通り、吉乃の面倒を見てやりなよ」


と、挑発的な笑みを浮かべたクモ婆は、一連の出来事を静観していた鈴音を見やった。

鈴音はまた不本意そうに眉根を寄せると、絹と木綿にじゃれつかれている吉乃から目を逸らした。

(やっぱり、こんなことを理由に鈴音さんに面倒を見てもらうのは申し訳ないよね)

なにより、見世で一番忙しい鈴音の立場からすれば、世間知らずの世話など迷惑に思って当然だ。


「あ、あのっ。私は──」

「──わかったわよ。私がこの子の面倒を見るわ」

「え……」

「でもね、私が面倒を見るからには絶対に甘やかさないわよ。琥珀さんもクモ婆も、私のやり方にあれこれと文句をつけるのはなしにしてくださいね」


胸の下で腕を組んだ鈴音は、そう言うとまたそっぽを向いた。

吉乃は一瞬固まってから、慌てて我に返って「ありがとうございます」と頭を下げた。


「良かったね、吉乃」

「は、はい。あの、クモ婆――じゃなくて、浮雲さんもありがとうございました。おかげで、自分の異能を確認できて、少しだけすっきりした気がします」


まさか、玉ねぎで涙が出るとは思わなかったが。

まぁ、色々考えてしまうところはあるものの、本当に自分に異能が備わっているのだと確認できたことは良かったと言えるだろう。