「そ、それはもちろん、見せていただけるものなら見てみたいですが……。異能は吉乃さんのものです。僕の一存では決められません」
琥珀は吉乃から目を逸らしたが、明らかにソワソワとして落ち着かない様子だった。
どんな相手であろうと虜にしてしまう、惚れ薬の効果を持った、惚れ涙。
見てみたいと思うのが普通だろう。
吉乃だってできるなら、本当に自分にそんな力があるのかどうか、確認してみたい。
(でも――)
「す、すみません。実は私……もう何年も、泣いたことがなくて」
吉乃は、しゅんと肩を落とした。
吉乃が泣けなくなったのは、養父母に言われた言葉が原因だ。
『私たちはね、子供の泣き声が大嫌いなんだよ だから私たちの前でピーピー泣くんじゃないよ、耳障りだからね!』
五歳で突如、愛する両親と死に別れ、散々泣いて目を真っ赤に腫らした吉乃を見た養父母が最初に吉乃にかけた言葉がそれだった。
当時の吉乃は幼いながらに衝撃を受け、身体から力が抜けたことを覚えている。
結局それ以来、吉乃は人前で泣くことを止めたのだ。
「だから、泣けと言われて泣けるかどうか……。というか、どうしたら泣けるのか、自分でもわからなくて」
先ほど咲耶に吉乃の涙は恐ろしいものではないと言われたときには、一瞬、目に涙が滲んだ。
でも結局、涙を溢すには至らなかった。
けれど吉乃の返事を聞いたクモ婆は腕を組んで熟考したのち、徐に顔を上げてパッと表情を明るくした。