ときは大正――。ここは、浪漫(ろまん)華やぐ現世の闇が巣食う場所。


「さぁ、次の女、前へ出ろ」


抵抗できないように両手を後ろで縛られた女のひとりが前に出る。

彼女の身体検査が終わればいよいよ自分の番だと、吉乃(よしの)は無意識のうちに身構えた。

ここは、帝都吉原。

今、吉乃がいるのは現世から売られてきた女たちの運命を決める、案内所だ。

一般的な劇場ほどの広さの室内には約二十名の女が集められており、彼女たちは共通して、遊女になる宿命を背負っていた。


「こいつらの中に、帝都で名を馳せるお方の花嫁に選ばれる女がいるかもしれないっていうんだから、おかしな話だぜ」


女たちを見張っている人ならざる者のひとりが、(あざけ)りながら周囲を見回す。