「一体どんな手を使ったか知らないけれど、咲耶様を落とそうと思っても無駄。不毛だわ」

「不毛……?」

「咲耶様はね、この私、帝都吉原一の花魁・鈴音が今一番狙っているお方なの。残念ながら、あなたみたいな小娘を相手にするはずがないわ。珍しい異能持ちだからって構ってもらえると思ったら大間違いよ。冗談はその瞳の色だけにしなさいね」


言葉と同時に掴まれていた髪が離される。

パサリと髪が落ちたと同時に、吉乃は自身の身体から力が抜けるのを感じた。

脱力してしまった理由は、他者と違う瞳の色を指摘されたからだろうか。

それとも咲耶が吉乃に構うのは、すべて神威の将官としての任務を全うするためだと気付かされたせい?

(ううん、まさか。そんなことで私が落胆する理由なんてないし……)

手の中のとんぼ玉を見つめた吉乃は、長いまつ毛を静かに伏せた。

脳裏を過ったのは、『俺は命を賭して、遊女となるお前を護る』と言った咲耶の清廉な声だった。


「ねぇ、私の話を聞いているの?」

「あ……はい。ご忠告、ありがとうございます。鈴音さんが仰る通りだと思います」

「わかっているならいいのよ。帝都吉原は、女が客に夢を見させる場所。相手に夢を見させられてのぼせ上がったら、いつか己の身を滅ぼすことになるからね。くれぐれも覚えておきなさい」


芯のある強い口調で告げられ、吉乃は膝の上で握りしめた拳に力を込めた。


「いやはや、さすが鈴音さんです。やはり鈴音さんに吉乃さんの世話を頼んだのは正解でした」


と、話が一段落したところで、すかさず口を挟んだのは琥珀だった。

けれど鈴音は調子の良い琥珀をジロリと睨むと、またフイッとそっぽを向いてしまう。