「私の他に、まだ妹分を持っていない子がいるでしょう。その子に任せればいいじゃない」

「ごもっともなのですが、そこをなんとか。吉乃さんは三カ月後には十八になります。それまでに一通りのことを学ぶためにも、鈴音さんのお力が必要なのです」


琥珀は、「これは鈴音さんにしかできないことですから」と言葉を続けた。

しかし鈴音はそっぽを向いて腕を組み、鼻を鳴らす。


「ふん。聞いたわよ。この子、早速大騒ぎを起こしたらしいじゃない」

「いえ、それは吉乃さんが悪いわけではなく、案内人だった大蜘蛛に問題がありまして」

「問題ねぇ。で、危ないところを咲耶様に助けられたってわけ? その上、なんだか便利な異能を持っているとかで。まさか咲耶様に早速、惚れ涙だかなんだかを飲ませたりしていないでしょうね?」


そう言うと鈴音は腕を組んだまま、ズイッと吉乃の顔を覗き込んだ。

(美人は怒っていても美人だなぁ)

なんて、吉乃はまた呑気なことを考えてしまった。


「ちょっと。私の話を聞いているの?」

「あ……す、すみません。つい見惚れてしまって」


吉乃の返答を聞いた鈴音は、また「ふん!」と鼻を鳴らして顎を上げる。


「聞き飽きた言葉だわ。それで、惚れ涙ってやつを咲耶様に使ったの? どうなの?」


改めて聞き直され、吉乃は慌てて首を左右に振った。


「いいえ、使っておりません。というか、そもそも私自身も自分の涙にそんな力があるかどうか半信半疑でいるところで……」


言いながら吉乃は伸ばしたばかりの背中を丸めた。
 
吉乃の返事を聞いた鈴音は、ぴくりと片眉を持ち上げて、真意を探るような目でまじまじと吉乃を見やった。