「鈴音さんは、名実共に帝都吉原一の遊女です。だから吉乃さんには是非、鈴音さんの元で多くを学んでいただきたいと思ったのですが――」


と、そのとき、突然パーン!と勢い良く部屋の(ふすま)が開いて、琥珀の言葉を遮った。

四人は同時にビクリと大きく肩を揺らして振り返る。

現れたのは、まるで天女のように見目麗しい女性だった。

着ている着物はほんの少しはだけており、それが驚くほど色っぽい。


「琥珀さん。咲耶様がいらしたというのに、どうして私を呼んでくれなかったの!?」


天女は声を荒らげても美しいものだ。

出るべきところはしっかり出ている細身の身体に、雪のように白い肌。

艶のある黒髪は腰の辺りまで長く伸び、絹糸のように繊細で、光って見えた。


「咲耶様がいらしたときは私に声をかけてほしいと、口を酸っぱくして伝えていたではないですか!」


しかし、奥ゆかしさのある見た目に反して、天女の大きな目は怒りでギラギラと燃えていた。


「すみません、鈴音さん。咲耶様もすぐに仕事に戻らなければならないということでしたので、引き留められなかったのです」


──鈴音、と呼ばれた女性はその名の通り、声も透明感があって美しい。

けれど天女改め鈴音は琥珀の弁明を聞いたあと、なぜか吉乃をじろりと睨んだ。

(え……)

吉乃はなぜ今、自分が睨まれるのかわからなかった。

なにか気に障るようなことをしただろうかと考えたが、思い当たる節はない。