「絹、木綿。早速だけど、ふたりにお願いがあるんだ。これから彼女を、鈴音さんのところに連れていってくれるかな」
けれど、琥珀の言葉を聞いた途端に、ふたりの表情が曇った。
「その……今、鈴音しゃまは……」
「ちょっと……というか、だいぶ虫の居所が悪いと言いますか、その……」
ふたりは歯切れ悪く答えたあと、互いに顔を見合わせて視線を下に落としてしまう。
琥珀はなにかを察したのか、「なるほど」と呟いてから曖昧な笑みを浮かべた。
「あの、鈴音さんって?」
不思議に思った吉乃は琥珀を見て小首を傾げる。
「鈴音さんは紅天楼のお職……つまり、ここの遊女の頂点に立つ花魁を務めている女性です」
琥珀の返事に、吉乃は思わず目を見開いた。
当然吉乃も、花魁がどういう存在であるかくらいは知っている。
花魁とは、見世の頂点に立つ高級遊女のことで、まさに高嶺の花と言える存在だ。
帝都吉原では花魁を花嫁として身請けする場合、莫大な金銭を支払う必要があると聞く。
(そう言えば案内所で見張り役が、〝鈴音花魁〟という名前を口にしていたような……)