「まぁ、兎にも角にも、咲耶様のご判断なら疑う余地はありません」
「あ、あの……。その、咲耶さんは一体何者なんでしょうか? 私、大蜘蛛に襲われそうになったところを助けていただいたんですが、結局、咲耶さんのことはよくわからず仕舞いで」
咲耶がどうして親切にしてくれたのかもわからないままだ。
けれど恐る恐る尋ねた吉乃に対して、琥珀はまた猫なのに鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「なんと。吉乃さんは咲耶様の素性をご存じないのですか?」
「す、すみません」
「ううむ、そうでしたか。でも、帝都吉原で遊女として働くなら、咲耶様のことはよく知っておくべきではあります」
そうして琥珀は仕切り直すように、コホンと小さく咳払いをした。
「咲耶様は、帝都吉原の秩序を守られているお方で、その実は帝都でも指折りの強大な力を持つ、誉れ高い神様であられます」
「神、様?」
「ええ。とても特別なお方なのです」
「特別な……」
「咲耶様は帝都政府軍・神威を率いる将官の地位に立つお方ですから。咲耶様のおかげで、帝都と帝都吉原の安寧秩序は守られていると言っても過言ではありません」
琥珀は誇らしげに、きりりと目を光らせたが、吉乃は驚きのあまり返事をすることができなかった。
(咲耶さんが、あの神威の将官――?)
信じられないが、そうだと言われたら納得してしまう。
案内所で大蜘蛛と見張り役たちを捕縛したとき、咲耶は確かに神威の名を口にした。