「あの咲耶様が笑うなんて……なんだかとても、貴重なものを見てしまいました」
と、不意に口を開いたのは琥珀だ。
「咲耶様自ら遊女を見世に連れてくるというのも異例ですし、吉乃さんは本当に、咲耶様にとって特別な方なのですね」
思いもよらない言葉に驚いて振り返れば、琥珀が人懐っこい笑顔を浮かべて吉乃を見ていた。
「あ、あの、噂とは……」
「咲耶様は、吉乃さんを大変気に入っているという話です。あの咲耶様が女性を抱えて歩いていた……なんてことになれば、皆さんが噂をするのも当然ですが」
ゆらゆらと尻尾を揺らす琥珀は、なぜかとても楽しそうだ。
仲之町通りを咲耶に抱えられて通ったことを思い出した吉乃は、今さら恥ずかしさで肩をすくめた。
「それに、僕にも堂々と、吉乃さんは自分の特別だと仰いました。おふたりにどのようなご事情があるのかは存じませんが、咲耶様の言葉に嘘はないように感じました」