「俺はこのあと、今回の件の事後処理のために軍に戻らなければならない。あとのことはそこにいる紅天楼の楼主(ろうしゅ)、琥珀から説明を受けるといい」

「紅天楼の楼主……?」


吉乃が恐る恐る目を向けると、猫耳の青年──琥珀は、ニッコリと笑って頭を下げた。


「改めまして。たった今、ご紹介に与りました紅天楼の楼主を務めている、琥珀と申します。どうぞよろしくお願いいたします」


楼主とはつまり、妓楼(ぎろう)──見世の主人のことだ。

この物腰柔らかな青年が、帝都吉原一の大見世の楼主?

現世ならあまり聞かない話に、吉乃はまた驚きを隠せなかった。


「琥珀は見ての通り猫又の妖だ。一見温厚そうに見えるが、怒らせると中々に厄介だぞ」


と、吉乃の戸惑いを察した咲耶が面白そうに(うそぶ)いた。