(いにしえ)より日本は、ふたつの世界で成り立ってきた。

人々が暮らす表舞台、〝現世(うつしよ)〟と、人ならざる者──(あやかし)や神、そして一部の選ばれし人のみが住まう、〝帝都(ていと)〟だ。

ふたつの世界は決して交わることはないと思われた。

人は人ならざる者の怪異的な力に怯え、人ならざる者もまた、人の未知なる知恵を恐れたからだ。

しかしあるとき、人ならざる者の中でも特に強大な力を持つ者が現れた。

それは、人ならざる者でありながら、人の女を花嫁として迎えた妖だった。


「人ならざる者の雄は、清らかな魂を持った人の女を(めと)ることで、より強い力を得ることができる」


ふたりの間に生まれた子も賢く雄弁(ゆうべん)で、帝都にて数多の輝かしい功績を残したという。

以降、人ならざる者の男たちの多くは、人の中から生涯の花嫁を探すことに躍起になった。

けれどそのうち、手当たり次第に人の女を攫う、人ならざる者が現れはじめる。

事態を重く見た現世と帝都の両政府は、〝とある場所〟以外での花嫁探しを禁ずる掟を定めた。

すべては安寧秩序(あんねいちつじょ)を守るため。

こうして、人ならざる者が、花嫁となる女を探すために訪れる場所として、苦界(くがい)と呼ばれる花街・遊郭、〝帝都吉原〟は創られた──。