「さ、咲耶様!? 今日は一体、どうされたのです!?」


するとすぐに見世の奥から、青みがかった黒髪が美しい和服姿の青年が出てきた。

咲耶ほどではないが整った顔立ちをしている。

目尻が優しそうに下がった青年の見た目は吉乃と同じ十七、八に見えるが、頭には黒猫の耳が、腰からは二本の尻尾が生えていた。


「もう話は耳にしているかもしれないが、大蜘蛛に狙われた遊女を連れてきた。名を、吉乃という」


そう言うと咲耶は、後ろに控えていた吉乃に目配せをする。


「吉乃は異能持ちだ。帝都吉原で遊女をしていくには神威の厳しい管理が必要になるため、紅天楼の所属とするのが適切であると、この俺が判断した」


咲耶から説明を受けた青年はピンと耳を立て、やや驚いた様子で吉乃をまじまじと見つめた。


「咲耶様のご判断であれば、もちろんうちでお引き受けいたしますが……。本当にうちに任せていただいて、よろしいのですか?」

「ああ。紅天楼以上に適切な見世はない。吉乃のことをよろしく頼む。彼女は俺の〝特別〟だからな」


――特別。

また甘言じみたことを口にした咲耶を前に、吉乃は複雑な気持ちになった。

対して咲耶の言葉を聞き届けた琥珀は、猫なのに狐につままれたような顔をしている。

そうして踵を返した咲耶は改めて、まだ事態を飲み込めずにいる吉乃と対峙した。