「ここは……」


咲耶が吉乃を下ろしたのは、大門の近くに位置する、とある見世の前だった。
 
見世の見た目は趣のある日本家屋の巨大なお屋敷だが、入口には赤い提灯がふたつぶら下がっている。


「ここは帝都吉原一の大見世、紅天楼(べにてんろう)だ」

「紅天楼……?」


大見世は、帝都吉原内で最も格式高い遊女屋のことをいう。

その中でも紅天楼は特に歴史ある大見世で、浮世事に疎い吉乃でも耳にしたことがあった。


「悪いが、琥珀(こはく)を呼んでくれるか」


見世の暖簾(のれん)をくぐった咲耶はまず、そこにいた小間使いに声をかけた。

咲耶の顔を見た小間使いは顔色を青くして返事をしたあと、一目散に見世の奥へと駆けていった。