(私は、どこにいても厄介者なのだと思ったけれど……)

咲耶は、そんな吉乃を美しいと言ってくれた。

咲耶だけが、吉乃を認めてくれたのだ。

(ああ、なんだか変だ)

両親を亡くして以来、人前では泣いたことはなかったのに。

咲耶の言葉を聞いて、吉乃は今日まで張り詰め続けてきた糸が緩むのを感じた。


「す、すみません。なんだか急に気が緩んで……」


吉乃は慌てて頬に手をあて、涙を堪えた。


「謝る必要はない。涙には、心を洗う力があると聞く。だから、これからは我慢せずに泣きたいときに泣くといい。ひとりでは心細くて泣けないというのなら、俺がそばにいてやろう」


そう言った咲耶は、穏やかな笑みを浮かべながら吉乃をそっと抱き寄せた。

次の瞬間、強く風が吹いて木がざわめき、桜の花びらの群生が宙を舞った。


「俺が吉乃を迷惑に思うことなど、絶対に有り得ないから大丈夫だ」


吉乃を抱きしめる腕は慈愛に満ちていて、吉乃はここへ来て初めての安心感を覚えた。

(どうしてこんなに、咲耶さんの言葉は胸に響くんだろう)

なにより、桜を見たときと同じように懐かしい気持ちになる。