「それはもう、私が生まれるずっと前から……。木花村の呪われた一族の、最後のひとりが私です。だからもし、私を花嫁になど迎えたら、咲耶さんにいずれご迷惑がかかるかもしれません」
吉乃の声が自然と沈んだ。
もちろん吉乃は咲耶が本気で自分を花嫁に所望しているとも思えなかったが、もしもの可能性を考えたら言わずにはいられなかった。
「すみません、急にこんな話をしてしまって。でも、ご迷惑になる前に、私は咲耶さんには釣り合わないということをお伝えしたくて」
そこまで言うと吉乃は、再びゆっくりと桜の木を見上げた。
その儚げな横顔と桜の花びらが舞い散る光景に、咲耶は恍惚として見惚れた。
「それに大蜘蛛の言うことが本当なら、私には珍しい異能の力まで備わっていて……。こんなこと、まるで信じられませんが、私が流す涙には惚れ薬の効果があり、それはとても恐ろしい力だとも言われました」
いよいよ、自分はどこに行っても厄介者なのだと、吉乃は自分の運命を呪った。
吉乃が不遇な日々に挫けず、今日まで生きてこられたのは、吉乃を優しく抱きしめながら名前の由来を話してくれた両親の笑顔が、いつも心の中にあったからだ。
(でも、その両親と過ごした現世にも、私は二度と帰れない)