「ふっ……まるで意味がわからないという顔をしているな」

「は、はい……。一瞬、空耳かとも思いましたが……」


今の咲耶の様子を見る限りでは、聞き間違えでも空耳でもないらしい。

大蜘蛛といい、咲耶といい、人ならざる者は人を驚かすことが好きなのだろうか。


「も、もしかして、また冗談ですか?」

「冗談などではない。俺は冗談が嫌いだと言っただろう?」


さっきは冗談を言ったくせに。

言いかけた言葉を呑み込んだ吉乃は、今度は思い切って咲耶に尋ねた。


「人ならざる者は、自身の花嫁に成り得る女性がわかる……んですよね?」

「ああ、そうだ。俺の魂が、吉乃を強く求めているのがわかる」


断言した咲耶はやはり、冗談を言っているようには見えなかった。

対する吉乃は複雑な気持ちになって、視線を下に落としてしまった。

(私が、咲耶さんの花嫁だなんて……。そんなわけない。私みたいな女が花嫁に選ばれるなんて、絶対に有り得ない)

俯いた吉乃の脳裏を過ったのは、自身がこれまで歩んできた道だ。