「ここは、とても心落ち着く場所ですね」
「吉乃がそう思うことこそ、俺とお前が深い縁で結ばれているなによりの証だ」
「え……?」
と、低く艶のある声に導かれ、吉乃は静かに振り返った。
そうすれば、咲耶の黒曜石のように綺麗な瞳と目が合って、息を呑む。
(私と咲耶さんが深い縁で結ばれている――?)
「吉乃は、俺にとって特別な存在だ。そう……吉乃は生まれる前から〝俺の花嫁〟になることが決まっていた」
だから吉乃は、この桜の木を見ると懐かしい気持ちになるのだ――。
そう言葉を続けた咲耶は、形の良い目をそっと細めた。
吉乃の長く黒い髪が風に揺れる。
漆黒の瞳は今確かに、吉乃へ一途に向けられていた。
「ずっと、お前を探していた。俺の花嫁」
(はな、よめ?)
トクン、トクンと鳴る鼓動はまるで、舞い落ちる桜の花びらと結ばれているようだ。
吉乃を真っすぐに見つめる咲耶の眼差しには熱がこもっていて、吉乃はなんと答えたら良いのかわからなかった。