「ここは、帝都吉原ではないのですか?」

「いや、残念ながら帝都吉原だ。正確には、帝都吉原内の空間の歪みに結界を張って作った神聖な場所……といったところか」

「神聖な場所?」

「ああ、だから、ここなら誰に見つかることもなくふたりきりで話ができる。安心しろ」


そう言うと咲耶は、吉乃と繋いでいる手に力を込めた。

そして言葉の通り、本当に吉乃を安心させるように微笑んだあと、繋いだ手を引いて歩き出した。

(でも、安心しろって言われても……)

そうそう、安心などできるはずもない。ここは帝都で、咲耶は人ならざる者なのだ。

(まさか本当に、食べられたりしないよね?)

吉乃は均整のとれた横顔をこっそりと見つめながら、大蜘蛛を斬ったときの咲耶の変貌ぶりを思い出した。

髪は闇色に染まり、瞳は燃えるような紅色になった。

黒く禍々しい靄に包まれた彼は残忍で、躊躇なく自分と同じ人ならざる者である大蜘蛛を消し去ったのだ。