「ここは……?」


咲耶が吉乃を下ろしたのは、帝都吉原の外れにある、白い鳥居の前だった。

花街の賑わいが嘘のように静まり返ったその場所は殺風景で、古い鳥居と小さな(ほこら)以外は、なにもない。


「この先に俺の屋敷がある。そこで話そう」

「お屋敷が?」


咲耶の言葉に、吉乃は首を傾げてしまった。

(お屋敷があるって……この先には、遊女の逃亡を防ぐための大きな堀、〝お歯黒どぶ〟があるだけのような……)

どう見ても、お屋敷が建つスペースはない。

けれど咲耶は戸惑ってばかりの吉乃の手を引くと、静かに呪文のようなものを唱えながら古い鳥居をくぐった。